時震

θ=5 β=5

久々にカート・ヴォネガットの本を買った。まだ三分の一程度しか読んでいないが、「タイムクエイク」と題されたそのSFストーリーの中で、日本への原爆投下はショービジネスだと書かれている。事実上物理的にも対戦能力を無くし、アメリカに降服を申し出ていたにもかかわらずシカトされ「戦争を終わらせるため」という理由でご丁寧に二回も落とされたあの原爆のことだ。アメリカの高校生の教科書に「日本軍がアメリカ本土に大挙して押し寄せ、大勢の人々を殺害しょうとすることを、それより死人の数が少なくて済む方法で阻止し、世界に平和をもたらした決断」と書かれているあの原爆のことだ。ついでながら、その日本軍とは、すでに武器の材料となる物資も無く、家庭の鍋釜を集めては溶かしてようやく戦闘機を作ったり、基地に張りぼてのゼロ戦を並べていた、あの日本軍のことだ。

ショービジネスとはうまい言い方だ。ところで、まったく同じ方法でいまだに世界は騙され続けているわけだが、そのウソのばかばかしさや陳腐さに対してショービジネスという横文字はスマートすぎる(ところで何でも横文字をスマートだと思う感性はさんざんコケにしたいところだが今はやめとく。しかし、”マニフェスト”なんて気取ってる場合かコラ!)。というか淡泊すぎる。というか、日本人には聞こえが良すぎる。この場合はむしろ日本語で「世界爆発劇場」というようなニュアンスのほうが似合い、かつヴォネガット的だ。などとそう思う。「商売」という言葉も付け加えたいが語呂が悪い。説明過剰も野暮だ。

「タイムクエイク」は2001年2月13日に起こり、世界を1991年2月17日に引き戻してしまうという話だが、既に80歳を超えている作者が”最後の本”としているこの本は1996年に書き上げられたということである。本当にこの作品が最後の本になるなら、それは残念だ。ほんのあと5年、長い人類史のほんの砂粒一つ程度の時間だけ、書き上がるのが遅れて欲しかったと思う。そうすれば「タイムクエイク」は2001年9月11日に起こったかも知れず、その後に続く”人類への愚弄”の数々も小説の中に刻印されたかも知れない。そして何よりも、それらの愚行を一言で表すヴォネガット流の粋な語録を携えて、笑っている場合ではないこれからのウンザリするような世界劇場に、せめて「秘密の半笑い」を懐に忍ばせて対処していけたかも知れないのにと、そう思うのでした。

はい、次はスポーツです。