θ=5 β=5

—-Phase-6

翌日もハスキーヴォイスのモーニングコールと熱い日本茶で始まった。お茶を持ってシャワールームへ。するとまた電話だ。

「下で朝食ご一緒してもいいですか?sato-kenさんの許可は取ってあります。」

「いいよ、じゃ15分後ね」

レストランには三人娘が勢揃いし、バイキング形式のメニューの中から、私の朝食はすでに揃えられていた。完璧だが一つだけ普段と違うものが有った。牛乳だ。フフフ外したなと思ったが、せっかくだから黙っていただく事にしよう。さて、朝食だ。雑談をしながら私は自分が無意識的に頻繁にやっている行動に気が付いた。腕を掻いていたのだ。昨夜は無事蚊をかわしたものの、どうやら部屋で刺されたらしい。そういえばチェックインした後、直ちに部屋の窓を開けて冷気を逃がしていた時、トランクを持ってやってきたポーターが「窓を開けると蚊が入ります」と言っていたのを思い出した。しかし、昨夜も習慣で冷房を止め、窓を開けて寝てしまったのだ。

「掻いちゃダメ!」

と乙が言う。

「掻いちゃダメ!」

と残りの二人も言う。

あー、掻きたい。何か気をそらす物はないか。掻きたい気持ちを忘れるような刺激的な情報を入力できないだろうか。そうだ、牛乳だ。牛の乳だ。動物のタンパク質だ。私の身体にはとても珍しい情報だ。こいつを一気飲みしよう。良いアイデアだ。さあ、動物だ動物だ、とても珍しい情報だと唱えながら一気に流し込む。

ぜーーーんぜん珍しくなかった。

あまりに珍しくないので私が驚いているのを見た三人娘は、きょとんとした顔をしている。「あなたのテーブルに豆乳があるのがそんなに驚きですか?」という顔をしている。「まさか私たちがあなたのテーブルに牛乳を置いたと思ってるなら心外だわ]という顔をしている。「なにかご不満でも?」という顔をしている。しかし、昨日も調べたが、このレストランには豆乳は無い。聞けば、外で買って来たのだという。一本取られた。

別の意味で掻きたい気持ちは紛れたが、それもつかの間。腕が気になってしょうがない。えーい、掻いてしまえ。

「掻いちゃダメ」

と乙が言う。

「掻いちゃダメ」

と甲が言う。

遅れを取るまいと丙が言う。

「掻いちゃダメ」

しょうがない、フルーツでも取りに行き、連中の死角で存分に掻こう。私が席を立とうとすると、

「私が行きます!」

「何を取りに?」

「掻いちゃダメ!」

「いや、マンゴスチンをもう少し食べようかなと思って。。。」

「マンゴスチンは向こうには有りませんよ。」

「向こうに有るのは、スイカ、パイナップル、パパイア、マンゴーだけ。」

「え?じゃ、このマンゴスチンとノイナーとチョンプーは?」

と聞けば、甲がごそごそとビニール袋を持ち上げ、

「ここです」

また一本取られた。
さて、食事も終った。今日の予定はモン族の村訪問だ。同行したいという娘らの要望に応えてワゴン車をチャーター。三人のカトゥーイと職業不明の二人の日本人を乗せた車は山道を登ってゆく。この後、寝不足をすると鼻の通りが悪くなるという体質の乙が、ヒラサワケア担当の地位を独占することになる。鼻づまりのおかげで….