ストーリー|WORLD CELL 2015

第二次世界大戦によって破損し、1998年に再稼働した世界の感覚細胞WORLD CELL。それは人々の知的活動を包括し、集合的な気運を生み出す装置だ。包括の結果が壊滅的な気運に繋がる兆候を見せた時、WORLD CELLは包括を中断し、壊滅的な主流に隠れたより穏やかで創造的な活動をスキャンして危険な気運を中和する。

1998年、世界はWORLD CELLの停止による「存在麻痺」の危機から逃れ、新世代WORLD CELLのより良い運行スクリプトによって安定するはずだった。しかし、現実はますます安定から遠ざかり、新たな世界大戦へ向けて突き進むかのように見えた。もしWORLD CELLが正しく機能しなければ、危険な気運はますます増幅されるだろう。そしてそれよりも恐ろしいのは、万が一WORLD CELLが停止すれば、世界は「存在麻痺」に襲われ、一切が停止した無生命の世界になることだ。

2011年、WORLD CELLの安全装置が働いた。WORLD CELLは、より穏やかで創造的な意識活動を求めてスキャンを開始した。そこで発見されたのが、他の惑星ではスポットと呼ばれる意識体、つまり太陽系アシュオンだった。アシュオンは過去にP-MODELという組織が発見した未知の生命であり、遠くPEVO星では神に等しいものである。

WORLD CELLは即座にアシュオンのスキャンを開始し、世界の気運を浄化しようと試みた。そこでWORLD CELLは新たな事実を発見する。世界は人工的なPhaseで覆われ、現実はホログラムによって作られた仮想現実によって隠されていた。そこは、不安や制限、人間の相対化、不足や不可能性で満たされており、二項対立によって分断されていた。危険な気運はそれらを糧に成長していた。

WORLD CELLはしばらくアシュオンとの連携を維持したが、あろうことか、成長過程にあったアシュオンは「不安」「制限」「不可能性」など人工Phaseに充満する概念を学習し、自からの性質に取り込み始めてしまった。

PEVO星からやって来たアシュオンを熟知する組織、ワンドムーバは危険を察知してアシュオンを破壊した。それと共に、連携、あるいは参照する対象を失ったWORLD CELLも停止した。再び世界は「存在麻痺」の危機に晒された。

2014年の年の瀬、翌年の11月から来たヒラサワと称する男が現在のヒラサワに接触した。彼は、遠いタイムラインでいち早く起こったWORLD CELLの停止による「存在麻痺」から逃れ、いくつもの時間流を横断してやって来た。間もなくこのタイムラインでも起こる「存在麻痺」の危機を知らせるために。彼は数か月未来の十一月から現在のヒラサワに接触することから「過去向く士」と呼ばれている。時空のパラドックスは、過去向く士自身の存在の可能性を低下させ、消滅しかけたが、彼はψヶ原という時空に逃げ込み、そこから現在のヒラサワを操り、間もなく起こる「存在麻痺」を回避するため、WORLD CELL再稼働に向けて誘導している。

一方、過去向く士を追って来たもう一人のヒラサワが居る。彼もまた、さらに遠いタイムラインで起こった「存在麻痺」を逃れて来た男だ。主体性が希薄で、周囲の影響を受けやすく、常に不安を抱えて右往左往しているその男は、過去向く士の後を追えば、安全な場所にたどり着けると信じ、ずっと過去向く士を追って来た。過去向く士は彼を「抜け殻」あるいは「アヴァター」と呼んでいる。

アヴァターの不安は日ごとに増し、今や過去向く士に倣うこともなく、独自に暴走し始めている。過去向く士は、落ち着きなく、不安に駆られて行動するアヴァターの性質を利用し、WORLD CELL再稼働において最も危険な役割を負わせようと企んでいる。

2015年11月。かくして過去向く士は、現在のヒラサワ、アヴァター、そしてWORLD CELLのある地の果てへと橋を架けるコード・シューター達を従え、WORLD CELLの再稼働に挑む。