θ=5 β=5

謝辞:
この話にネイティブ・ハワイアンは登場しない。タイトルに偽りのあることを謝罪しておく。これは、ネイティブ・ハワイアンの心意気に打たれた元ヤクザで元警察官の男の話だ。さて、はじめようか。

元ヤクザで、元警察官?むちゃくちゃじゃないか?ああ、むちゃくちゃだとも。裏社会の事情はどこの国でも似たり寄ったりだ。あ!マズイ!・・これは私のリスナーだけに話すことが許されたこと。ホテル名なんか書いてあったら、検索でひっかかってしまう。ちょっと待て、今消してくる。

消してやった。ついでに名前も変えてやった。これでよい。

今回、オーナーがヒラサワのために用意してくれた部屋の話をしようか。浴室が二つ、シャワー室が一つ、トイレが三つ、寝室が二つのグランドスイートだ。とてもじゃないけど約一週間の滞在、そんな部屋のお代など払えはしない。「難民の方たちどうぞ、私はソファーで寝ますから」とはいかないまでも、だれかにお裾分けしなければバチがあたりそうな部屋だ。勿論タダだよ、タダ。そうだ、メイドさんにお裾分けしよう。快適な朝を迎えた私は、故意に部屋を散らかす。シーツを床に放り投げ、さもゲストが大勢来たかのようにソファーのクッションをあちこちに点在させ、使ってもいない食器を流し台に置く。そうしておいて、多めのチップを枕の下に隠す。悪い遊び・・・。明日は自粛しよう。

もう一度快適な朝を迎えたと言っても過言ではない朝、何を食べたか覚えていないと言っても過言ではない朝食を済ませて仕事にかかる。炎天下をあちこち動き回り、夕方ホテルに戻った。後で分かった事だが、その間オーナーは何をしていたか。こうだ。彼は私の部屋に入ったメイドさんにインタビューをした。ヒラサワが何か困った形跡は無いか。そして、これが重要、パソコンはどの位置に置いてあったか。メイドさんは、「電話機のある机に置いてあった」と答えたと思う。確かに私はパソコンを電話線に接続した。しかし、この部屋でダイアルアップ接続をする人は居ないハズなのだ。なぜなら、このホテルの従業員全員が、この部屋では無線LANが使えると信じていたからだ。それなのに何故、昨夜ヒラサワがロビーで無線LANをしていたという目撃談があるのか、オーナーは疑問だった。おそらくあの部屋に泊まった客は、パソコンを持ち込んでセコセコと仕事するような人種達ではなかったのだろう。たまには貧乏人を泊まらせてみるもんだ。はい、無線LANなんかつながりません、ご主人様。仕事を済ませて部屋に戻った私が目撃したものは、にわかに三階のこの部屋まで引っ張り込まれたLANケーブルだった。

オーナーが夕食を一緒にどうかと誘ってくれた。ホテルの屋外レストランでは我々の後に一人、ウエイターがピタリと張り付いていろいろと世話をやいてくれる。オーナーがたばこを取り出すと、ウエイターはさっとライターを差し出す。オーナーは「XXXさん、それはやめて」と断る。ウエイターはにこっとして、それでもライターを差し出す。オーナーはヤだと言う、ウエイターもヤだと言う。完全に遊んでいる。

食事が終わってオーナーが言った。「ヒラサワさん、私はアーティストと話をすることがどれほど難しいかを知っているつもりです。それは本当に難しい。私は昨日スゴイものを見てしまった。あんな音楽や、あんなコンサートを作る人と私が対等に話せるわけがない。それが悔しい。私がヒラサワさんに相応しい人間になるまで時間をください。」こういう時が一番困るのだ。こんな時、日本語ならいろんな言い回しで突破できる。無駄だと知りつつ言ってみる。

「何をおっしゃいますやら」

つづく。