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引っ越し先は80人の細胞となり-4

ロイヤル・パラダイス・ホテルを背にしたコの字形のエリアに TANGMOはある。かつて三ヶ月に一度という頻度でヒラサワが訪れていた頃、このエリアに観光客の姿は無く、長身美形のカトゥーイ達がめいっぱいのオシャレをして闊歩する異空間だった。騒々しい音楽は無く、冷たい照明のコーヒーショップやレストラン、アンダーグラウンドなショー・シアターなどに挟まれた通りで、人工美のアンドロイド達がすれ違いざまに交わすWai(合掌)を見て、ヒラサワが帰らぬ人となったそのエリアだ。SF映画のセットのようなこのエリアは、カトゥーイ達の間で「パラダイ」と呼ばれていた。「パラダイ」には「主」が居た。TANGMOと呼ばれるカトゥーイのおばさんだ。TANGMO を悪く言うカトゥーイに会ったことがない。とにかくイイ人なのだと皆が言う。ラッキーにもヒラサワはTANGMOの誕生パーティーに参加したことがある。その日パラダイはほぼ封鎖状態になり、通りには仮設ステージが設置され、タイ全土から何百人ものカトゥーイがお祝いのために集まって来た。想像を絶する光景の中に、たった一人居た男性がヒラサワである。しかし、とりたててその時ヒラサワはTANGMOと接触したワケではない。ただSIMONの連中に連れられて、紛れ込んでいただけである。その後、SIMONのダンサーをコンサートに出演させた日本のミュージシャンのウワサがパラダイ中に広まった。「主」がそのウワサを知らないはずがなかった。

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TANGMO

パラダイも今ではすっかり様子が変わってしまった。かつてのSF世界は消滅し、短パンにビール腹のファランや金満ジャップのウンザリするような現実に浸食され、すっかり観光地と化してしまった。良いことか悪いことか、TANGMOが経営するショー・シアターTANGMO CLUBも数百メートル移動した場所で、こぎれいに新装オープンしていた。

さて、書けることと書けないことがある。直接的な表現以外に為す術がない事がある。いくら他人様の行為でも、書けばヒラサワのイメージダウンにつながる事がある。新装TANGMOの中では、そんなショーが繰り広げられていた。と言っても、おっさん好みの陰湿な露出ショーでは無く、一歩間違えればガキデカの世界のようなものである。TANGMOは懐深い。カトゥーイのきらびやかなショーの前に行われる、ゲイのためのゲイによるショーだ。しまった、あと30分遅れて来るべきだった。ゲイの方々には申し訳ないが、私は辛い。せいぜいsato-kenと二人で、「そうねえ・・私はあの子がお気に入り」などと冗談を言い合ってお茶を濁すしかない。しかし、そんな二人の仕草を舞台の上から見つけ、真に受けるヤツがいるからたまらない。自ら身体の異変を作り出して誇張し、しきりにアピールされて逃げ場を失うヒラサワ。

教訓:悪い冗談は相手を見極めてから言うべし。

そこに現れた助け船、Ji、Nico、PassのプーケットSIMON三人娘。Nengに連れられただいま到着。咄嗟に状況を把握したNengが大笑いし、「Susumu、この人お気に入り?」と、身体異変男を指さす。「冗談、冗談」と言いながら手際よく三人娘をヒラサワの周囲に座らせる。身体異変男は「なんだ、そういうことか」という素振りで退散。

いや、それもまた誤解だよ、オイ!

ここでお詫び。sato-kenは今回デジカメを忘れた。仕方なくフィルムのカメラで撮影していたが、フィルムの巻き取り障害でTANGMO以降の写真が全部ダメ。従ってJi、Nico、 Passの写真が無い。NengからもらったCD-ROMにダンサーの写真が大量にあるが、残念ながらNicoの写真しか見つけられなかった。Jiと Passには内緒。

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Nico

拷問のような時間が過ぎ、いよいよカトゥーイのショーが始まる。しかし、私がTANGMOに来た理由はただ一つ。キレイなおねいさんたちを見るためではない。スパイダー・ウーマンとして知られる、LiLiのパフォーマンスを見るためだ。LiLiの悪夢のような下品さは日本のニューハーフによく見るお笑い担当とは格が違う。なにもしなくても下品なのだ。地獄のように貧相で、ムカツクほど弱そうで醜い。アホの坂田師匠をカトゥーイにして、三日三晩食事を与えずに働かせたような、と言えば近いかもしれない。かつて見たLiLiはステージで縛られ、吊され、殺虫剤をかけられ、足蹴にされていた。しかし、そんな LiLiに私がいじめられるとは夢にも思わなかった。

(続く)