θ=5 β=5

門は開きもせず、馬の骨はトンヅラした。ピンポーン!

「どうでもいいわよ」

とLISAは言った。(念のため名前はLISAのままにしておく:「パスの重き門一部改変」を参照)

今回の渡タイでは、サオプラペーッソン(「カトゥーイ」禁止令参照。以下SP-2と略す)と無駄話をしているヒマはあまり無かった。彼女たちとの無駄話こそ私の創作には役立つのだが。従って、続き物になるような、長い土産話は無い。

私がバンコクで次から次へとSP-2と会っていることを知り、LISAが私のホテルに電話をして来た。

「いつものところで待ってるから」

もう二度と会うことは無いと思っていたLISAが電話をして来るとは、いったいどうしたことか。

「あごの形を少し変えたから見に来てください」

バカをお言いでないよ。辛い思いで会わぬ覚悟を決め、幸せになるのだぞと我々は姿を消してやったのに、たかがあごの形を見るためにノコノコと出かけるとでも思っているのだろうか。勿論出かけるとも。待ち合わせの時間を決め、我々はノコノコと出かけて行った。

どこをどう変えたのか、もはや本人にしか分らない。微調整されたアゴを触りながら話すLISAはいつもよりサバサバとして、何かふっきれたような印象だった。「マゾなのワタシ。手術が大好きなのよ」。前より良くなったとも、悪くなったとも評価できずに「んー」と唸っている私とsato-kenに向かって LISAはあっけらかんと言う。

「ワタシ店閉めちゃいました」。

何い?!。SP-2の誰もが夢見るゴールの高台に立ち、我が胸に飛び込めと両手を広げた馬の骨は、数ヶ月で盗人に豹変し、金をすっかり持ち出してトンヅラしたという。おかげでLISAは店を閉めるはめになったのだった。ということは、彼女がSP-2であることを隠すために我々は彼女の周辺から姿を消す必要も無くなったということなのか。

“SP- 2の夢など所詮こんなもの”と、初めから悟っていたかのようにLISAは暗い表情一つ見せずにサバサバと話し続ける。そこに逆説的な悲しみすら感じさせないところがまたすごい。さすが波瀾万丈のSP-2は肝が据わってる。LISAは我々の今回の渡タイの目的に一役買いたいと言った。しかし我々の計画は、パスであろうとなかろうと、SP-2をSP-2として扱うことが基本だ。そこで我々は念を押した。

「この計画では、オマエはあくまでSP-2として扱われるが、それでいいんだな?」

「どうでもいいわよ」

「じゃあ、今撮影しているこのムービー、ネットで公開してもいいか?」

「どうぞ」

という訳で、諸君は「亜種音TV」Vol.10「The Kingdom of SP-2」で、動くLISAを見ることができる。残念ながら室内の照明が暗く、彼女の美貌を余すことなく表現できてはいないのだが。

ところで、同席したsato-kenは寝不足やキツイ冷房で体調を崩してしまった。私が彼のズボンの裾をたくし上げ、「足三里」にタバコ灸をすえているのを見たLISAは日本語でこう言った。

「ワタシにも手伝わせて!オネガイ!」

満面に笑みを浮かべてそう言うと、両手に持った二つのライターにボッ!と火を付けた。
オマエ、マゾじゃなかったのか?