θ=5 β=5

告知:
このペースでいくと、この話はいつまでたっても終わらない。ゆえに、部分的に激しく省略するので不足情報は想像で補うように。

フィリピン・バンドのヴォーカル:じゃあ、あたし達コピーして歌おうか!
オーナー:無理無理。そういうことはこのDVDを見てから言いなさい。

無理じゃあないと思うけど・・・。
まだ詳細は未定ですが、もしかしたら警察の許可が必要なこともあるかもしれません。と、ヒラサワはオーナーに言う。全然問題ない、いっさい心配ない、とオーナーは即答する。何故かと言えば、彼は以前警察官だったからだ。警察官からホテルのオーナーに?このような履歴を持つ男はただの家系ではないことが想像できる。突っ込むべきか、流すべきか。若干はだけ気味のアロハシャツから、ちらっと肩付近に深く刻まれた傷が見えた。「その傷、警察時代のものですか?」と、恐る恐る聞いてみる。「私のこっちの潰れた目を見てください。私の体は傷だらけです。でもこれは警察時代のものじゃありません。私は昔ヤクザだったんです。」ほら来た。ここで動じてはいけない。ミュージシャンたるもの、人生の掃きだめすら喜んで覗く。そんなエピソードは100度も聞いたわい、と言わんばかりの平静さで、「あ、そうですか」と応えてみたものの、内心「ちょっとまて、これ以上深入りすべきか、すべきでないか。おなかが痛くなったと言って一目散に空港へ向かうべきか。」と、考えはグルグルと回る。しかし、種の保存より好奇心が勝つ芸人の性。「さあ、続けてごらん」と満面に巨大フォントで綴るがごとく、若干身を乗り出してしまう、哀れヒラサワ。

省略

「私は良い人間です」と、オーナーは何度も言う。普通自らは言えない言葉だ。しかし、艱難辛苦をくぐり抜け、命をねらわれ、傷を負い、地獄からはい上がった男の言葉は誠実に響く。まるで映画のような話だ。いちおう省略部分を簡単に説明しておこう。オーナーの所有するホテルやレストランは、父上が亡くなって相続したものだ。父上の臨終はそう遠くないと知った彼は、良い人間になることを決意し、ハワイへと修行に向かう。ネイティブ・ハワイアンから「良い人間とは何か」を学び、帰国した彼は、終始持ち歩いていた銃を捨てる。しかし、それで事が終わらないのが世の常、ハリウッドの常套手段。彼は終始身の危険にさらされ、恐怖に震えながら生活することになる。そして父上の死と財産の相続。

省略

「ヒラサワさん、私はいつも怯えながら暮らしてきた。私が良い人間になるのを邪魔する者たちがいる。でも、ヒラサワさんは、彼らにできなかったことをした。私はあなたに殺された。セイレーンと庭師KINGによって。」

sato -ken、感極まる。sato-kenがオーナーに話しかけようとして、こう呼びかけた「vichanさん」。オーナーはsato-kenに、どうか「さん」はやめて欲しい、呼び捨てか、それがいやなら「ドラエモン」と呼んでください。と言う。実際、後日開かれた大きめのミーティングで、彼は大勢の人の前でsato-kenに同じことを言った。

「ヒラサワさん、あなたの音楽に殺されて何かが断ち切られたような気がする。私はもう怖くない。あなたにもらった新しい銃が有るから」と言ってオーナーが鞄から取り出したのはCOLT-45ではなく、LIMBO-54であった。

sato-ken号泣。

さて、仮に全てがウソであったとしても、彼はただ者ではない芸人である。

完。