θ=6 β=4

執筆中のSP-2本の中で、一瞬小西健司が登場する。名前は伏せてあるが、ドイツ電子音楽にルーツを持つ女人禁制的鋼鉄の友人、と言えば諸君はピンとくるだろう。折りしも鋼鉄の友人が登場するパートを執筆中に本人から電話がかかってきた。マスタリングを終えたので、MP3を聞かせてくれるとのことだった。4-D Mode1のアルバムが23年ぶりにリリースされる。そのほんの一部にでも参加させてもらえたことはとても嬉しい。小西健司おカブの独国延髄切風楽曲の中でギターを弾かせてもらった。さて、どんなギターなのかを、すごーく遠回りして書いてみよう。

4-Dには成田忍というちゃんとしたギタリストが居る。ちゃんとしたギタリストがいるユニット(現在一般的に使われるユニットという言葉はキモチワルくて赤面ものだ。しかし、元来ユニットというのは4-Dのように個々が自立したモジュールとて合目的的に組織化される形態のことを言うのであって、マスコミに出てくる芸能音楽グループなどはまったくユニットなどではない上に反ユニットである。しかるに、ユニット、ユニットってキモチワルイぞこのド田舎者めらが)にどのツラ下げてヒラサワが介入するかが大いに問題だ。だから、ちゃんとしないことにした。とは言っても、私はギタリストとして常にちゃんとしてないが。小西健司から参加のお誘いがあった時、おりしも複数の布置が重なって、私の元に黒のモズライトが舞い込んで来た。モズライトといえば1960年代にベンチャーズ、寺内タケシ、加山雄三などが使用したことで有名だ(と言っても、若人は知らないだろうが)。大卒の初任給が2〜3万円程度だった時代にモズライトは30万円もする代物だった。当時日本ではエレキバンドのシンボル的存在だったモズライトも、世界を見渡せば実際問題上の三者ぐらいしか使っていなかったというマイナーな存在で、現在ではビザールギターの範疇に片足をつっこんでいる。にも関わらず、当時のエレキな若者(丁度現在の団塊の世代)の憧れの的であり、その後現在に至って財力を獲得したおっさん達がモズライトに群がっている。試しにモズライトで検索してみるといい、おっさんしか出てこないから。余談だが、次のGreen Nerve会報には中学生ヒラサワとモズライトのエピソードが載っている。その後モズライトは不運の道を辿り、一旦この世から消えかけたが、現在では日本で製造されている。なんと、タルボと同じ運命を辿り、タルボと同じメーカー、東海楽器がその製造元となった。マイナーだが、死んでも死なないという境遇はまた、AMIGAにも似ている。

モズライトの音は、カリフォルニア・サウンドと言われているが厳密にはその表現は不適切だ。私はむしろジャーマン・サウンドと呼んでいる(ホラ!ちょっと小西健司に近づいて来たでしょ!・・何が?)。モズライトを開発したクラフトマンはドイツでギター作りを修行し、アメリカに帰国してモズライトを作った。その独特のボディーシェイプは俗にジャーマン・カーブと呼ばれ、使われているパーツも独国風にゴッツイ。性能のためならこれでもかと巻かれたと思しきコイルを収めた石炭ストーブのように武骨なピックアップからはゴツゴツと太く、バカデカイ音が製造される。これをジャーマン・サウンドと呼ばずして何と呼ぶか。しかし、やはり絶滅種(絶滅してないって)にふさわしく、音もデザインも個性的だ。ベーンチャーズ含むご三方が使用したものという先入観を取り払えば、黒のモズライトは、私には歌舞伎を思わせるデザインにも見えるから不思議だ。持ってみると意外に似合うのでビビった。

遠回りしすぎ?・・もう少しね。出来るだけ遠くに逃げないと。いや、成田忍からさ。60年代のエレキと言えばサーフ・ミュージックである。何故あれをサーフ・ミュージックと呼ぶのか私には理解できないが、おそらく「電気ブラン」と似たような背景があるのだろう。両者とも宇宙服にヘルメットといういでたちの(このコスチュームからして、どこがサーフィンなんだ?おい、業界人。)スプートニクスやアストロノウツがその代表曲を演奏していたことから、私はむしろアストロ・ミュージックと呼んでいた(小学生が主流を無視するとは生意気な)。そのサウンドの特徴はめっちゃ深く効かせたスプリング・エコーだ。めっちゃ深く効かせたスプリング・エコーがアストロ・ミュージックの特徴ならば、その深さでいえば私のルーツでもあるアトランティクスに軍配が上がる。しかし、アトランティクスのエコーの深さは、アストロ・サウンドというより・カタストロフ・サウンドと呼ぶにふさわしいもので、当時ラジオがこぞって放送を拒否したというエピソード付きの破壊力ゆえに(実は今聞くとそれほどでもない善良な領域であり、相対的にいかに現代人の脳がカタストロフ状態であるかが分かって反省させられる。)、ここでは同類には分類しない。スプリング・エコーは細いスプリングの共鳴振動を利用したエコー装置だ。今は絶滅している。スプリングに過剰な負荷をかけ、スプリング自体がピョンと跳ねる効果を連続して使用するのがアストロ・サウンドである。ミュートされたギターの弦が弾かれるたびにピシャンという音がしてその後に残響音が残る。振り返ってみれば、大衆テクノロジー音楽が人類に仕掛けた感覚犯罪の始まりはアストロ・サウンドだったような気がする。それは、テクノロジーによって作り出される充分に非現実的な音だった。その後はギターの音を故意に歪ませたディストーション・サウンドがほんの一時何かをこじ開けたが、シンセサイザーの登場によってギターは感覚再編成工作員の座を奪われて保守陣営となる。

さあ、60年代まで逃げてくれば大丈夫だろう。4-Dには60年代の落とし子、モズライトとアストロ・サウンドで挑むことにした。しかし、問題がある。私はもはやスプリング・エコーなど持っていない。と思って検索してみると、デジタル技術によるスプリング・エコーのシミュレーターが有った。早速入手。残念ながら思うようにスプリングは跳ねてくれないが、概ね及第点の音だ。私に与えられら16小節を、おもいきりアストロ・サウンドで埋めた。それは単純なフレーズを繰り返すだけの演奏だが、小西健司が構築した流れに突如現れる違和感の漂流物として聞こえたら、成功と言える。さて、どうだろう?聴いてみて欲しい。