θ=5 β=5

—-ショーでカモにされない方法—-

一夜明けたが、緊急出動を要請した2人のカトゥーイからはまだ返事が無い。しかたない、私とsato-kenは夜になるのを待ち、某オープン・カフェあたりで通り過ぎるカトゥーイ鑑賞でもすることにした。夕方になり、大通りの屋台で食事。歩道に設置されたテーブルに座ると、1メートル横を車が排気ガスをまき散らして通る。タイ米のお粥、空心菜、豆腐とのりのスープ。ああ、なんと健康的なメニュー。ああ、なんと不健康な環境。夕食後、タクシーを拾って目的地へ。

yatai.gif

違法コピーの腕時計やいかがわしいブランド商品、どこの国で作られているのか不明なおみやげを売る屋台を通り抜け、我々はどんどん路地を進む。相変わらず「オニイサン、オトコ、イッパイ イルヨ、ドウ?」などと声をかけられるヒラサワ。シャレで入店するのも一興だが、どうせ結果は知れている。いつも同じ表現で申し訳ないが、通勤途中で追いはぎにあったようなしょぼくれたニイサンがズラリと並び、ブリーフいっちょうで足踏みしているだけだ。イチ、ニ、イチ、ニとね。無視してどんどん進むsato-kenとヒラサワ。イチ、ニ、イチ、ニと進んだあたりで突然腕を捕まれ、サンでストップを余儀なくされた。

見れば、ちょいと太めのオバチャンがニタ〜っと笑いながら私の腕にしがみついている。しまった!キンコンナーのマネージャーだ。キンコンナーとは King’s Cornerのタイ式発音。キンコンナーは、カトゥーイの美術館とも呼ばれる美形パス・カトゥーイの殿堂である。いわゆるゴーゴー・バーと呼ばれるジャンルに属する店で、お立ち台では大勢の美形カトゥーイが踊っている。お立ち台カトゥーイの出入りは比較的多く、仰天するほどの美形が勢揃いしている時期もあれば、そうでもない時期もある。かつて万国点検隊で数十人のヒラサワ・リスナーをキンコンナーに誘導したことがあるが、残念ながらそのときは, “それほどでもない時期”であったのが悔やまれる。そして今、「店に入るまで離さないヨ」といった表情でしがみつくオバチャン。

kc.gif

本当は、路地のちょっとしたスペースに出されたテーブルに座り、熱いウーロン茶でもすすりながら、キンコンナーと、そのはす向かいにある姉妹店に出入りする私服のカトゥーイを鑑賞するのがオツなのである。店内に入れば美形カトゥーイを間近で鑑賞できるのだが、一方うっとうしい客も多い。カトィーイと知ってか知らずか、お立ち台娘の心をつかもうと、白いダブルのスーツに花束を抱えて入って来てはさんざんコケにされるダサダサの某アジア国人。二本差しで郭に上がる田舎侍のように威張りくさった野暮な某アジア国人。べたべたとカトーイの体を触ったあげく、わずか300円程度のチップを要求されたと憤慨するファラン(白人)。一度美形のカトゥーイがハイヒールでファランに跳び蹴りをくらわすのを見たことがある。よほどのことだったのね。でも、あ〜見たくない、見たくない、そんなの。

さて、オバチャンはヒラサワの腕をつかんだままだ。仕方ない、入るか。オバチャンに手を引かれて一番目立たない席へ。オバチャンと数人の店員がヒラサワとsato-kenの周りに張り付く。なるほど、オバチャンが腕を離さないわけだ。お立ち台の上は美形揃い。しばらく目の保養をしているうちにダンシング娘総入れ替えの時間。あれ?次にお立ち台に勢揃いしたのは本物の女性だった。詐欺だ!しばらく前からキンコンナーは本物の混ぜものをしているが、こんなに増やすとは・・・。見ていてもつまらないのでsato-kenと雑談を始める。すると一人の店員が言う。「二階を改装してキャバレーショーを始めたから見に行く?」(タイでキャバレーショーといえばカトゥーイのショーのことである)あまり期待はできないが、とりあえず行って見ることにした。

二階へ上がり、誘導されたのは最前列の席。イヤな予感がする。店員は善意でこの席に連れて来てくれたのだが、私はイヤな予感がする。タイのキャバレーショーといえば客にちょっかいを出して笑わせる出し物が必ず組み込まれている。前回プーケットのTangmoでカモにされたばかりだ。「今日も絶対カモにされる」そんな確信に近い予感があった。そして、ショーは始まってしまった。予想通りあまりおもしろくない。sato- kenがショーダンサーの中に2名のサイモン・チェンマイ出戻りカトゥーイを発見したが、私は全然記憶に無い2人だった。後で聞いたところ、やはりチェンマイ出戻りだった。

さて、ついに来た。客をダシに笑いを取る出し物。醜いメイクをしたカトゥーイが大げさに泣きながら登場。しばらく大泣きした後、ステージから降りて来た。ああ、今日も私はカモにされる・・・。その時咄嗟に思いついたことがある。有効かどうかやって見なければわからないが、もしかしたらカモを逃れられるかも知れない。大泣きカトゥーイは見る見る私に近づいてくる。やはり狙われている。私はポケットから500バーツ札を取り出し、小さく折りたたんで右手に仕込んだ。大泣きカトゥーイが私をステージに引っ張り上げようと手をさしのべた瞬間、他の客からは見えないよう、その手に500バーツを握らせ「アイツをカモしろ!」と言わんばかりに一人のファランを指さした。大泣きカトゥーイはそっとOKサインを出し、くだんファランのもとへいちもくさんに突進。ファランはステージに引っ張り上げられ、奇妙な踊りをさせられる羽目になる。なんというキタナイ手段。しかし、どうかご理解頂きたい。ヒラサワがあんな踊りをさせられているところを、万が一誰かに見られたら、アーティースト生命は終わりです。