パスの重き門-6
θ=4 β=6
—-意味ないやん—-
Mintを連れた我々3人は、徒歩にてキンコンナーに到着。
「あなた、ここ初めて来たか?アタシ日本語話せるからだいじょぶよ」
むむ、これは女だ。カトゥーイは初対面の人間にこんな雑な日本語で話しかけたりしない。そのうえイントネーションが関西風でなんか変だ。ふん、「あなた、ここ初めて来たか?」はこっちのセリフだ。私の周囲に張り付いたマネージャーやスタッフが苦笑している。表情や仕草など、印象作りに気合が感じられず、姿勢の悪いこの人物を本物の女性と見抜いたヒラサワが関心を示さないことを察し、彼女はsato-kenにちょっかいを出し始めた。sato-kenは関西弁を話す彼女を気に入ったらしく、盛り上がっている。話しの内容がまったく関西のぼやきおばちゃんなので、私も笑させてもらった。ところで、私はsato- kenにそっと耳打ちした。「この人女だよ」「うっそー!?」と驚くsato-ken。
Mintはお立ち台のカトゥーイにくぎづけ。「Mint、気に入った人がいたら言いなさい、呼んであげるから」と言うと、「じゃあ、あの人!」と即決。脇のマネージャーがレーザー・ポインターで呼び寄せる。呼ばれた美形カトゥーイは私の前に来て、奇麗なフォームで合掌し、丁寧な挨拶をした。「私じゃないんだ。呼んだのはこの子だよ」と言ってMint を指す。Mintは上がって話せない。親切なスタッフがMintとカトゥーイの間に入り、とぎれとぎれの会話が始まる。
一方、隣では関西ぼやき姉さんとsato-kenが盛り上がっている。姉さんは「意味ないやん」を連発してぼやきまくっている。sato-kenが言う。「師匠、外の静かな場所でこの姉さんの話しもっと聞きたい」OK、私も大音量のスピーカーの真下で疲れてきたところだ。「Mint、そのお姉さんと外で話したいか?」 Mintは照れて首を横に振った。私も彼女はちょっと苦手なキャラだったので間に入るのもシンドイ。美形カトゥーイには礼を言ってチップを渡した。さて、じゃあ、ぼやき姉さんには私服に着替えてもらおう。
外に出た4人。ぼやき姉さんは私がさっきのカトゥーイを連れていないのに気付き、突然立ち止まって言う。
「意味ないやん!」
ぼやき姉さん:あなたカトゥーイ好きなのになんでさっきの子連れてこんの?
ヒラサワ:苦手なキャラだから。
ぼやき姉さん:あたしだけじゃ意味ないやん
ヒラサワ:どして?
ぼやき姉さん:だってあたし女よ。
ヒラサワ:知ってるってば。
ぼやき姉さん:satoも?
sato-ken:はい!
ばやき姉さん:二人とも人がわるいわ。知ってるならそう言ってほしいわ。意味ないやん・・・。
変な会話・・。女性だと思い込んで連れ出し、途中でカトゥーイと分かると怒って追い返すという間抜けな無礼者も居るというのに。
一行は、とあるコーヒー・ショップへと向かう。歩きながらぼやき姉さんはヒラサワに「あんた仕事行く時はバイクで行くの?」などと変な質問をする。「自転車」と答えておいた。そうこうしているうちに目的地に到着。冷房がギンギンに効いた店内をどんどん進むとドアがある。その先はほとんど知られていない裏庭にテーブルとソファーが置いてある。外なので勿論冷房は無い。ここに陣取ればちゃんとウエイターが注文を取りに来てくれる。秘密の快適スポットなのだ。なんとそこにはカ
トゥーイ3名の先客が居た。しかもその内の一人はちょっと有名な子だ。さすがに美しい。面識は無いので別に挨拶もせず我々は隣の席に陣取る。Mintはすでに隣の有名カトゥーイにくぎづけ。
「意味無いわ」と、ぼやき姉さんは早速ぼやき出す。「わたし、この仕事むいてないわ」「あんたどうして仕事辞めたの」とMintに聞く。「こんな子はな、日本に連れてってほうりだしたらええねん」さすが5年間日本で暮らした経験のある姉さん。タイでは通用してしまう「おもしろくないから仕事を辞めた」という理由は通用しない。
姉さんのぼやきは続く。「また一つ一つ門をくぐらなあかん」タイに戻ってきた途端、振り出しに戻ってしまったそうだ。仕事が無く、紹介でようやくキンコンナーに置いてもらえたという。しかし、日本では一回のパチンコに3万円もつぎ込むくせに、たった300円を値切ろうと必死な日本人を相手にするのはシンドイ。やっと120バーツ稼いでも通勤のタクシー代に100バーツ消えてしまう。残るのはたった60円程度。
その後4人はカラオケのVIPルームに戻り、sato-kenはぼやき姉さんをママに紹介。どうやら姉さんの転職が可能のようだ。姉さんの流暢な関西弁は日本人客にうけるにちがいない。しかし、衣装代などは自分もちのため、必要な身支度金が貯まるまで姉さんはキンコンナーで頑張ることとなった。めでたし。「ようやく次の門が見えたわ。しばらくキンコンナーでがんばる」
ぼやきながらも、将来に向かって一つ一つ段取りを踏む姉さんの様子を見ていたMintは何かを悟っただろうか。姉さんがMintに言う。「あんたはどうすんの?」
さすがタニヤ・ノンリニア・ガール。将来の希望も、現在可能な段取りも、すべて一律に現在の選択肢でしかない彼女は、すかさずこう答えた。
「日本で働きたい!」
姉さん、我々のほうに向き直り、
「この子、意味ないやん」