θ=4 β=6

—音が来る—

そこは路地である。斜め右背後から来る音は純粋な音程のみを持ち、斜め左前方から来た音も純粋な音程のみの波だ。彼の頭蓋骨の中で二つの音が出会うと、即座に共鳴するものがあった。感情だ。彼はひとかどの人間として交換不能な個人史を持ち、同時に重く汚れた灼熱の遺恨を背負っている。そのために彼は完全に世界を見誤っている。というより、彼はその世界の創造者であり、犯されることのない地位に立つ権威者である。

後方から第三の音が迫り、先の二つの波と彼の頭蓋骨の中で出会う。それらの音は彼の歪んだ個体性に惑わされることは無い。共鳴させるべき感情を寸分の狂いもなく汲み上げる。到来する音群が帯状の和声となり、更に多方向からの音群と交わった時、彼は複雑な共鳴が彼のクローンを作り出すのを見た。クローンはひとかどの人間として路地に立ち、その個人史と灼熱の遺恨で世界の創造者となった。斜め右背後から音が来……