θ=5 β=5
リカンベントに乗って一年以上が経つ。毎日約20キロの道のりを走る私のリカンベントライフには人に言えない悲劇があった。それは、段差を乗り越える度に脳が破裂することである。確かに後輪にはサスペンションがついていて、ショックを和らげるようになっている。しかしそれは、後輪が段差を超える時にのみ効果を発揮するだけだ。では、前輪が段差を超える時はどうなのか。上の写真を見ていただきたい。振動が背骨を通って一直線に脳に伝わるのである。その度に脳は頭蓋骨を飛び出し、50センチ上空で破裂する。車道から歩道に上がる程度の段差でも、すごい衝撃が脳を直撃する。少ない段差と大きい衝撃の対比と言えば、危険なので試しにやってみないで欲しいが、膝のクッションを使わず、足を伸ばしたまま10センチ程度の高さから飛び降りたような衝撃だ。普通の自転車なら軽く腰を浮かせれば済む話だが、リカンベントの場合、足で体重を支えることができないので、腰を浮かせることも出来ない。
私は毎日リカンベントに乗る度に疑問に思った。みんなどうしてるんだろうと。きっと上手な人は腰を浮かせることができるのだろう。あるいは、毎日段差を超える度に頭蓋骨に衝突する脳の皮が厚くなり、「脳ダコ」が出来て衝撃を感じなくなるのだろうか。私は「脳ダコ」はイヤなので、なんとか腰を浮かせるワザを体得しようと決めたが、未だ出来ない。体勢的に不可能なのだ。
ある時私は気がついた。実に大げさに気がついた。腰を浮かせるという発想が間違いなのだと。腰を浮かせるのは、普通の自転車に乗っている時に生まれる発想であり、私はリカンベントというジャンルの異なる乗り物に乗っているのだから、まずこの発想の牢獄を抜け出ることが先決だと。そのように大げさに気がついた。
背骨という、振動の通り道の終点に脳が位置することが間違いなのだ。ではどうするか。リカンベントに乗る時は頭を、膝とかお腹とか手首のあたりに付け替えれば良い。出来ればそうしたいが、出来ないから悔しい。代わりに考えた姿勢が下の写真だ。こうすれば脳は振動の通り道から外れることになる。実に簡単である。試しにこの姿勢で段差を超えてみた。まったくOKだった。いつものように段差の前で、止まってしまうほどに減速しなくとも、脳は頭蓋骨から飛び出さずに段差を超えて行く。
しかし、こんな事に気づくのにいったい何日かかっているのだろう。やはり、最初の段差を超えた時、私の脳はイカレてしまったかも知れない。
脳は大切に。