θ=4 β=6

—その後—

第9図の続きである。
クローンは果てしなく作られたが、少しずつ生じる遺伝子の乱丁やミスプリントの結果、僅かに多様性を持ち始めた数十番目のクローンはようやく気が付く。自分は複雑な和声の共鳴であると。その時、もはや不協和音と化した音群の中から良き旋律を掘り出す術を発見した。それは彼自身の在りように対応して現れるのであった。彼の感情と音との立場は逆転した。音が感情をくみ上げるのではなく、感情が音を呼び込むのだ。今や彼はノイズの中からあらゆる旋律を自在に取り出すことができる。彼はあらゆる周波数を恐れることなく歓迎した。音としてあり得る全ての周波数(ホワイト・ノイズ)を呼び込んだ時、彼の立っていた路地は消え、そこは蓮の花咲く水辺となった。彼が、実は初めからそこに居たのだという事に気が付いた時、全てのクローンは消え、彼がオリジナルとなった。

たいして面白くはないが、まあいいか。これでこのシリーズは終わりだ。あと1曲は拡大しようにも歌詞が無い。だからこれで終わりだ。もう一度強く強く念を押しておくが、このシリーズで書いて来たことは歌詞の断片の拡大図だ。それは歌詞の要約ではないし、アルバムの要約でもない。それはオーケストラが一斉に演奏を開始した時、たった一人のバイオリニストのお腹で鳴ったグーという音を拾い上げたようなものだ。

私はこのアルバム「点呼する惑星」を作るにあたって、ある物語を作った。それは創作の地図として作ったに過ぎず、伝えたいメッセージとして在ったものではない。これは音楽の作品である。だから、まずは音楽として楽しんでもらいたいと思う。まるで当たり前のことだが、それには曲の配置において一つのスムーズな流れを作る必要がある。その流れを整えるために物語りは解体され、断片化された。

私は今、自ら解体し、断片化した物語をある一つの流れに従って再構築している。次のインタラクティブ・ライブのためだ。その物語は創作の地図として作った物語とはもう違う。私にそれが出来るのだから、あなたにもそれは出来る。もしあなたに物語が必要なら、そのようにしてあなた自身が作ればいい。「点呼する惑星」の物語は、リスナーの数だけ有っていいのだ。このアルバムは私の他の多くの作品同様「聴いているあなたは誰なのだ」という問いかけを疎かにしていない。

あー、せーせーした。