θ=6 β=4

—-Phase-3

翌日の夕食で、私はついにメニューを見るチャンスを与えられなかった。席に着くなり暖かいウーロン茶が支給され、「エアコンは寒くないか」「音楽はうるさくないか」「この風向きでタバコの煙は流れてこないか」など、あれやこれやの世話を焼かれているうちに私のメニューはすでに決定され、注文が出されていた。しかし、あらゆることが気付く間もない手際で行われるので、三人娘の誰が何をやったのかが判別しにくい。顔を見れば誰もがただにっこりと笑い「私に手抜かりは無いわ」といった表情をする。運ばれてきた私のメニューは完璧だった。

1:海苔のスープ、豆腐の量5割り増し、肉抜き、パクチー抜き。
2:空芯菜の炒め物。
3:大量の野菜、パクチー抜き、ミントの葉増量。
4:おかゆ。

はい、100点満点。ここから先は、本人たちの名誉のため実名は避け、それぞれ甲、乙、丙と表現することにしよう。まず乙がスープに手をかけ、私の食器に注ごう
としたところで甲が言う。

「ダメ!」

甲は私の食器を取り上げティッシュで念入りに拭き始める。この行為はタイでは珍しい行為ではなく、あちこちのレストランで見かける。スプーンやフォークや箸までピカピカになったところで再び乙がスープを注ごうとしたところで丙が言う。

「ダメ!」

良く見るとスープの中にひき肉の塊が入っていた。丙はウエイターを呼び、作り直すよう指示する。私が「いいよ、よけて食べればいいんだから」と言えば、

「ダメ!」

丙は「ダメです。肉のにおいが付いちゃってるわ」と言ってウエイターに持って行かせた。ああ、あれもダメ、これもダメ。乙はニコニコしているが、内心むっとしているに違いない。次のスープが来るまでの間に、乙は私の目の前の席に移動した。

「キタナイ!何でよ!」

という顔をする甲、丙に向かって乙は何かをタイ語で話した後、私に顔を寄せ、小声で言った。「私の後ろに日本人のグループが来ました。もしあの人たちがヒラサワさんのこと知っていたらイヤでしょ?私があなたを隠します。」

その後、何度か緊張の瞬間を経て食事は終了。お茶に手をかければ、例のごとくいつの間にか熱いお茶にすりかわっている。そして、目の前にデザートのフルーツが置かれる。まずマンゴスチンが置かれ、丙が微笑む。次にチョンプーが来て甲は微笑む。そしてノイナーと乙の微笑み。いずれも好物だが、全部を食べるわけにはいかない。もうお腹がいっぱいなのだ。すかさず甲が言う。「もうお腹いっぱいですか? お好きなものだけどうぞ。」私はこれ見よがしに時計を見つめ、こう言った。

「いけない!Aehに電話する時間だ。」